東京高等裁判所 平成6年(行コ)61号 判決 1995年5月30日
控訴人(原告) 二代目工藤連合草野一家
被控訴人(被告) 国家公安委員会
訴訟代理人 山田知司 東亜由美 村長剛司 柳井康夫 ほか五名
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一申立て
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が平成四年一〇月二九日付けでした、福岡県公安委員会が暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成五年法律第四一号による改正前のもの。以下「暴対法」という。)三条に基づき控訴人を同条指定の暴力団に指定した処分に対する控訴人の審査請求を棄却した裁決を取り消す。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文同旨。
第二事案の概要
次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実及び理由第二記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決の付加、訂正
1 原判決三枚目裏六行目の「申し立てたが」を「申し立てた(以下「物件提出要求の申立て」という。)が」に改める。
2 同五枚目表三行目の「できない。」の次に行を改めて「また、規則は審理官が行服法三一条所定の手続に関与することを禁止しているものと解されるし、仮に、規則が審理官が右手続に関与することを認めているとしても、そのような定めは行服法三一条及び暴対法二九条に抵触するから、無効である。」を加える。
二 控訴人の当審における追加主張
1 都道府県公安委員会が三条指定をするについては、あらかじめ、当該暴力団が暴対法三条の要件に該当するかどうかについての被控訴人の確認を求めなければならないものとされている(暴対法六条一項)が、このように三条指定の手続における確認について事前に関与しており、実質的に原処分庁というべき立場にある被控訴人に三条指定に対する審査請求についての審査権限を付与している暴対法二六条一項は憲法一三条及び三一条に違反しており、したがって、暴対法二六条一項に基づいてされた本件裁決も憲法の右各規定に違反するものであるから、取消しを免れない。
2 三条指定の取消しの訴えの提起について審査請求前置を定める暴対法二六条三項は、訴えの提起後の審理期間をそれだけ制約することにより、三年間という三条指定の有効期間内にその取消しを命ずる確定判定を得ることを極めて困難なものとしているから、憲法三二条に違反するものであり、暴対法二六条に基づく本件裁決も、取消しを免れない。
3 控訴人は本件審査請求に付随して物件提出要求の申立て及び報行停止申立てをしたが、これに対して、警察庁暴力団対策第一課長が専決処分により却下決定をした。しかし、暴対法二九条は三条指定に対する審査請求に係る事務について警察庁長官に対して権限を委任することを禁じているから、警察庁暴力団対策第一課長等に対して専決権限を授与することは許されず、前記却下決定は暴対法二九条に違反し無効である。そして、前記却下決定と本件裁決は密接不可分であって前者の違法は当然に後者の違法を構成するものであり、本件裁決は実質的には警察庁が専決処分により裁決を行ったと同視し得るものというべきであるから、暴対法二九条に違反し無効である。
三 被控訴人の認否
1 控訴人の右二の1、2の主張は争う。
2 同3のうち、控訴人が本件審査請求に付随してした物件提出要求の申立てに対し警察庁暴力団対策第一課長が専決処分として却下決定をした事実は認めるが、その余は争う。
第三争点に対する判断
次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実及び理由第三記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決一〇枚目裏末行の「設置する」を「置く」に改め、同一二枚目表八行目の「できない。」の次に「なお、規則三条一項は、行服法の規定により国家公安委員会が行う審理に関する事務を補佐させるために審理官を指名するものとしているのであるから、規則の右規定が、右にいう審理に関する事務に含まれることの明らかな行服法三一条所定の手続に審理官が関与することを予定しているものと解すべきことは多言を要しない。そして、審理官は、前記のとおり「その他の庁の職員」に当たるものとして行服法三一条所定の手続に関与することとなるのであるから、右手続についての審理官の関与が行服法三一条に抵触する旨の控訴人の主張は到底採用し得ないものというべきである(暴対法二九条に抵触しないことについては、次の4のとおりである。)。」を加え、同一六枚目表三行目の「被告自身が日本最大の暴力団であるから」を「被控訴人、都道府県公安委員会、警察庁及び都道府県警察は、パチンコ店やソープランド営業が暴対法所定の暴力的不法行為等に該当する常習賭博罪、賭博場開張罪、売春防止法一二条の罪に当たることに知りながら、集団的かつ常習的にこれらを行うことを教唆、幇助して助長してきたものであって、暴対法二条二号にいう暴力団そのものであるから」に改める。
二 控訴人の当審における追加主張について
1 控訴人は、暴対法六条一項によって三条指定の手続に事前に関与するものとされている被控訴人にその審査権限を付与した同法二六条一項は憲法一三条及び三一条に違反すると主張する。しかし、行政庁の処分についての不服申立制度は、国民に対して広く行政庁に対する不服申立てのみちを開くことによって、簡易迅速な手続による国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする(行服法一条)ものであるが、処分庁に行政法上の上級行政庁が存在しない場合において(三条指定を行う都道府県公安委員会の事務に関し直接指揮監督する権限を有する上級行政庁は存在しない(警察法五条四項、三八条一項、六項等参照)。)、処分について審査請求をすることができるものとするか、審査庁を処分庁以外のいかなる行政庁とするか等については、立法府が不服申立制度の前記目的をしんしゃくしつつ広範な裁量によって決し得る事柄というべきであって、暴対法二六条一項が都道府県公安委員会において三条指定を行う際の前段階における確認の手続に関与する地位にある被控訴人をもって審査庁と定めているからといって直ちに違憲の問題が生ずるものではなく、被控訴人を三条指定に対する審査請求についての審査庁と定めた暴対法二六条一項を憲法一三条及び三一条に違反するとすることはできない。
2 控訴人は、三条指定の取消しの訴えの提起について審査請求前置を定める暴対法二六条三項は憲法三二条に違反する旨主張する。しかし、法律に審査請求前置の定めを置くこと自体は、何ら憲法上許されないものではないし、行政事件訴訟法は、法律に審査請求前置の定めがある場合においても、八条二項各号の事由が認められるときは裁決を経ないで処分の取消しの訴えを提起することができるものとしているのであるから、暴対法二六条三項が審査請求前置の定めを置いているからといって、このことをとらえて憲法三二条違反とすることはできないものというべきである。
3 乙第一号証、原審証人村上泰の証言によれば、報行停止申立てに対する却下決定は、被控訴人が自ら行ったものと認められるから、警察庁暴力団対策第一課長が専決処分によりこれを行ったものであることを前提とする控訴人の主張は、前提を欠き失当というべきである。
物件提出要求の申立てに対する却下決定を、警察庁暴力団対策第一課長が専決処分として行ったものであることは、当事者間に争いがない。そこで、右専決処分について考えると、行政庁の権限に属する特定の事項について補助職員等に専決させるものとすることは、権限の委任とは異なり、法律の明示の根拠のない場合であっても、合理的な裁量の範囲に属するものである限り、事務処理上の便宜に基づく補助執行の一態様として、許されるものというべきであり、物件提出要求の申立て(行服法二八条)は、裁決という最終的な判断に対する関係で専ら準備的な性格のものにとどまること、審査庁は裁決の段階において改めて物件提出の要否について判断する機会を持ち得ること等からすると、審査に関する事務の迅速な処理を図るためにその許否につき補助職員等に専決により決定させるものとすることは合理的な裁量の範囲に属するものであり、専決処分としてされた前記却下決定は適法であって、これが暴対法二九条に違反する旨の控訴人の主張は失当というべきである。
三 以上の次第で、控訴人の請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 菊池信男 伊藤剛 福岡右武)